末廣醤油(兵庫県たつの市)
淡口醤油の主な産地である兵庫県たつの市で、天然醸造の淡口醤油を手掛ける創業明治12年(1879年)の蔵元。天然醸造にこだわり、醤油の様々な活用方法の提案にも積極的な末廣醤油の取り組みは、淡口醤油をメインにする蔵元が少ない中で際立っています。
たつのと醤油の歴史
その昔、宋の禅僧が味噌の製法を日本に持ち帰り、紀州の湯浅とこの播磨の地に伝え、その味噌の上にたまったお汁が醤油の始まりといわれています。以来、播磨地方は醤油の名産地として栄えました。
このたつのの地では、濃口醤油が安土桃山時代から造られ、淡口醤油は江戸時代の初期から作られています。当時の城主の保護、奨励を受けたたつのの淡口醤油は人気を博し、遠く江戸まで流通していました。
「たつの」ならではの豊かな自然と水から生まれる醤油
姫路の隣、兵庫県の南西部に位置する「たつの」は、瀬戸内海沿岸の穏やかに気候に恵まれ、自然豊かで、緑の多い景観を有する町です。街の中央を流れる揖保川は、夏には多くの鮎が上る清流として知られています。そしてこの揖斐川の地下水は鉄分が少なく醤油造りに最も適した「軟水」で、この水を用いて造られた醤油は、色が淡く塩味や旨味が豊かで、だしの風味を引き立てる、まさに日本料理に欠かせないものとなっています。
醤油造り適した気候、そして水。末廣醤油は代々、これらの自然の恩恵を最大限に活かすための伝統的な製法で醤油造りを行っています。
歴史と技術を守り続ける蔵人の想い
末廣醤油のある地区は古い商家などが建物が残る歴史あるエリアで、令和元年12月、文化庁から重要伝統的建造物群保存地域に選定されました。創業当時のおよそ140年前、たつのに60軒近くあった蔵元が現在は数件が残るのみですが、たつのの醤油造りの歴史とその技術は、人から人へ、そして蔵から蔵へと引き継がれて今も息づいています。
現在、末廣醤油では「蔵人」が、新しい技術や知識を取り入れながらも「変えてはならないもの」、「守り伝えるべきもの」が何なのかをしっかり胸に刻み込んで、毎日醤油造りに励んでいます。そして、その歴史の中で育まれたお客様との信頼関係、それを何より大切にしていきながら、日本の食文化になくてはならないならない淡口醤油の伝統の継承と革新に挑戦し続けています。
歴史ある蔵だからこそ実現できるこだわりの味
醤油は人間の力だけで造れるものではありません。原料の大豆や小麦から「しょうゆ」を造り上げるためには、いろいろな微生物の助けが必要になります。醤油作りのプロセスには大きく分けて①麹作り②もろみ作り③圧搾があり、その中のひとつ、麹作りで使われる「醤油酵母菌」の中には、蔵の中に長年住みついてその「蔵元」の醤油の変わらぬ味や香りづくりに、大きな役割を果たしています。
また、鉄分が少ない揖保川の仕込み水はもろみの熟成を穏やかにし、美しい淡い醤油の色を生み出す一つの要因になっています。このように一口に醤油作りと言っても環境や経年による様々な要素が影響しており、長い伝統の中で与えられたかけがえのない財産に感謝しながら、明日の食卓の美味しい一滴にこだわり続けています。